病弱書店

少し体が弱いです。本を紹介するブログです

木彫りのお殿様

「本を紹介するブログです」と書きながら、

前回(ミニチュアスナイパーとペーターの方舟 - 病弱書店)

1冊もご紹介しませんでした。

というのも私、『アルプスの少女ハイジ』を読んだことがありません。

読んでない本は紹介できない。

アニメの中のペーターの木彫りに見とれていましたが、本にもちゃんと木彫りが出てくるのかどうか知りません。

 

さて、このペーターの木彫りの動物は日本に輸入されました。

スイスからやって来たのは、北海道の八雲というところ。

北海道の南の方、函館の近くです。

 

八雲は明治14年、尾張徳川家の17代当主徳川慶勝が廃藩と同時に職を失った旧藩士のため、開拓地として選んだ場所です。

その頃はユーラップ(遊楽部)と呼ばれていました。

 

今よりもっと寒く、暖房器具も発達していなかった時代、お殿様の思いつきの入植はいかにも失敗しそうです。そういえば、『街道をゆく』の中の北海道版に「寒さで溶けるように死んでいく」と開拓時代の記述がありました。

 

八雲の開拓は、お殿様の思いつきではありませんでした。

17代目、18代目と続き、19代目の義親公の時代を迎えます。

この義親公は、現在も名古屋にある徳川美術館を擁する尾張徳川黎明会を設立したことで知られています。旧華族の所蔵する宝や美術品が困窮から散逸する中、一家族が所有することをやめ、お宝を守ったのです。

その義親公がヨーロッパ旅行に行った際、スイス、ベルンでお土産として購入したのが木彫りの熊でした。農民美術とも訳されるペザントアートは、ヨーロッパでは既にお土産品として売られるほど。八雲の人々の農閑期の収入増のため、生活のゆとりのため、義親公が持ち帰って普及させたのです。

 

今では、北海道土産の定番から転落した木彫りの熊ですが、短い歴史の北海道で、時間の流れと人の想いを感じさせる温かい存在だと思っています。

 

とは言えやはり、でっかいやつはあれですよね…

というわけで私はちっちゃいの(耳かきの上についてたのを取った)を飾ってます。

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八雲木彫熊のことが詳しく載っています。

「八雲木彫熊の作り方」が付録に付いています!

伝統工芸の創生―北海道八雲町の「熊彫」と徳川義親

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街道をゆく 15 北海道の諸道 (朝日文庫)

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