病弱書店

少し体が弱いです。本を紹介するブログです

オレンジの箱

四半世紀以上前にロシア語を習っていました。

ソ連が崩壊したばかりの頃で、通っていた学校は、

私が入学する直前まで「日ソ学園」という名前でした。

ロシア語会話の授業では、先生が映像やロシアの歌を

紹介してくれるのがとても楽しかった。

会話や文法だけじゃなく、歴史の授業もあって、

楽しく盛り沢山だったけれど、私は全然喋れるようになりませんでした。

早々に挫折したのです。

 

今では挨拶のЗдравствуйте!(ズドラーストヴィチェ!)が精一杯という有様ですが、

その時暗記したものはなぜか忘れません。

当時は、ロシアになったとは言えやはりソ連で。

ソ連時代の教科書を使っていたから、出て来る語彙も物騒でした。

Куба(クーバ)=キューバキューバ危機から)

Бомба(ボォンバ)=爆弾

他には、Пенсионер(ペンスィオネール)=年金生活者なんて社会的なものも。

 

中でも「Мать=母」という題の2ページほどのお話は

テストで暗記したので覚えています。

作家が戦争で亡くなった友人のことを新聞に書いた

というところから始まります。

その後彼に手紙が届きます。

その手紙には、戦争で子供が行方不明になった年配の女性の身の上とこんな一文が。

 

Вы не Володя?=あなたはヴァロージャ(ウラジーミルの愛称)じゃない?

 

作家の書いた友人の話と作家の姓が自分と同じだったことから

「彼は自分の話を友人の話のように書いているのではないか。

私の息子ヴァロージャなのではないか」と思ったというのです。

作家は、「残念ながらこれは本当に友人の話です」と返信を書きますが、

それ以来女性と作家は文通を続けます。

「最初私は親愛なるアントニーナと書いていましたが、

今では親愛なるママと書いています。私には二人の母がいるのです」

と結ばれます。

 

ソ連時代のものはどれもどこか寂し気で、

それが魅力でもありました。

 

会話の授業で先生が聴かせてくれたこの曲も。

 


【ロシア語】チェブラーシカ - 誕生日の歌 (Пусть бегут неуклюже) (日本語字幕)

 

チェブラーシュカの友人ワニのゲーナが歌う誕生日の歌ですが、

アメリカの人が誕生日に歌うのとは全然違う。

戦争や政治と切り離しては生きられない国に漂う

哀愁に憧れた若い頃の自分を思い出します。

今じゃ絶対嫌だけど。

 

昨日あるドラマを観ていて、ふとロシア語やこの歌のことを思い出しました。

The Crown


The Crown - Season 2 | Official Trailer [HD] | Netflix

 

 

英国のエリザベス女王が主人公のドラマです。

シーズン1も面白かったのですが、2は素晴らしい!

主役は変わらずエリザベス女王ですが、

本当の主役はフィリップ殿下だと思います。

差別発言や失言がひどくて、正直ろくでもないじいさんだと

思っていました。

地位や名誉は関係なく、人をわざわざ不快にさせ、

尊厳を傷つける人は嫌いなので。

でもこの人がどうしてこんな風になったのか、

このドラマを観ると少しわかります。

ギリシャの王子として生まれながら、国を追われ、

おじいさんは殺され、 お父さんは彼や母を傷つけ、

結局お母さんは心を病んで病院に入院します。

大好きな姉たちはナチの高官と結婚し、

うち一人は飛行機事故で夫や子供たちと

一緒に死んでしまいます。

 

戦争が終わってエリザベス女王と結婚してからも、

王家の息子でありながら 「素性の知れない者」と周りに言われたり、

姉たちの話が出る度 「あぁ、あのナチの姉さん」と言われ続けるのです。

 

ザ・クラウン2を観てチェブラーシュカを思い出したのは、

フィリップ殿下がギリシャを亡命する時、

小さな彼がオレンジの箱に入れられて 脱出したと知ったから。

 

チェブラーシュカ』は、八百屋のおやじさんがオレンジの箱で寝ている

チェブラーシュカを見つけるところから始まります。

南国でオレンジを食べ過ぎて眠ってしまったところ、

オレンジと一緒に箱に入れられてロシアまで送られて来てしまったのです。

チェブラーシュカ』の作者がフィリップ殿下の亡命を重ねたかどうかは

わからないけれど、オレンジの匂いの中ですやすや眠っていたチェブラーシュカのように

その時のフィリップ殿下も せめて香りに少し安らげていたら、と思いました。

 

 

哀愁のあるロシアの曲を聴きたくなってyoutubeで検索すると、

途中で必ずこの曲が出てきて強制的に気分が変わります。

 

 


ジンギスカン(1979) 歌詞付き